スリランカ

スリランカ経済、再生の胎動──世界銀行10億ドル支援の真意とは?

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スリランカの首都コロンボでは、街の一角に建設クレーンがゆっくりと動いている。

ただ静かに、しかし確かに、何かが積み上げられていく──この国が再び歩き出そうとしていることを、風景が教えてくれる。

2024年4月24日スリランカ・コロンボ:夕日が沈む中の商業ビルの建設現場

世界銀行が動いた──10億ドル支援の背景

2025年5月、世界銀行はスリランカに対し、10億ドルを超える支援を行うと発表した。

支援は今後3年間にわたり、雇用創出と民間産業の育成に集中投資される。
農業、観光、エネルギーという三つの柱を中心に、現地経済の根本的な活性化を目指すという。

背景には、国としての持続可能な経済成長への大きな課題がある。
世界銀行の推計によれば、今後10年間でスリランカでは約70万人分の雇用が不足し、毎年100万人近い若者が労働市場に参入してくる。

そのギャップを埋めるためにも、雇用の“場”を作る支援が急務となっていた。

復興資金ではなく「未来の設計図」

今回の支援は、単なる“復興資金”ではない。
より本質的には「国家の構造をどうつくるか?」という問いへの答えが求められている。

民間資本の呼び込みと、国営企業の改革。財政の健全化と税制度の透明化。
そうした“制度の土台”がなければ、経済は再び崩れるだけだということを、2022年の危機でスリランカは学んだ。

つまりこの10億ドルは「お金」ではなく、「信頼」の先払いである。

地政学の狭間に立つスリランカ

スリランカは、地政学的にも重要な国だ。インド洋の要衝に位置し、東西の物流が交わる地点。だからこそ、ここには様々な力が働く。

中国の「一帯一路」戦略、インドの経済・軍事的影響力、そしてIMFや世界銀行、西側諸国の思惑。経済支援の背後には、常に“外交と覇権”の影がちらつく。

日本企業にとっても、この国は「アジアと中東を結ぶ結節点」として再評価されている。
今後、物流、建設、環境技術、農業支援などの分野で日本の技術やサービスが求められる可能性は高い。

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「この3年」が国の未来を決める

スリランカは今、静かに再出発の時を迎えている。政治的な混乱、経済の崩壊、国民の怒りと希望──そのすべてを経験した国家が、いま新しい「制度」と「産業」をつくろうとしている。

再建に与えられた時間は3年。世界銀行の支援が切れるそのとき、この国はどこまで自力で立ち上がっていられるだろうか。

10年後、あの建設現場で働いている若者が「希望」を感じられる社会が訪れていることを、私たちは願わずにいられない。

著者について
新夢シャド
新夢シャド
1991年、バングラデシュ生まれ。7歳から東京で育つ。大学を卒業後、株式会社ファミリーマートで総合職として10年勤務。その後、ネオクロスを起業し、バングラデシュを中心に南アジアの投資や旅行、文化や人の交流などを幅広く発信している。
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