ネパールで再燃する「王政復活」の声──非暴力の抗議がカトマンズで始まった
2025年5月末、ネパールの首都カトマンズで、「王政復活」と「ヒンドゥー国家の再構築」を訴える大規模な抗議活動が始まった。
主導しているのは、保守系政党ラストリヤ・プラジャタントラ・パーティ(RPP)およびその関連団体だ。
街頭に集まったのは、長年沈黙していた王党派やヒンドゥー至上主義を掲げるグループたち。彼らは今、国家のかたちをもう一度問おうとしている。
抗議の主張ーー共和制・連邦制・世俗主義の「廃止」を
RPPの党首ラジェンドラ・リンデン氏は、「政治改革は選挙だけで実現できるものではない」とし、非暴力運動「サティヤグラハ(Satyagraha)」による市民的不服従を開始した。
運動の中心はカトマンズのラトナパーク。参加者は2000人規模とされ、あくまで平和的で秩序ある抗議を目指している。
一方、RPP-Nepalの党首カマル・タパ氏は、現体制(共和制・連邦制・世俗主義)の「完全な失敗」と断じ、王政への回帰こそが安定と統合の道だと訴えた。
次期国王候補として、元国王ギャネンドラの孫、ヒリダヤンドラ王子の名も挙げられている。

写真右:RPP-N党首カマル・タパ氏。王政・ヒンドゥー国家の復権を訴える市民運動の中心人物。
なぜ今、王政が再評価されているのか?
単なる「保守派のノスタルジー」ではない。
ネパール国内には現在、以下のような現実的な不満が渦巻いている
- 政治の混乱と腐敗:政党間の対立と連立崩壊が相次ぎ、政治の停滞が続いている。
- 経済の停滞:雇用不足、インフラの遅れ、外国からの援助依存。
- アイデンティティの空白:世俗国家への転換で、宗教と国家の関係が曖昧になった。
- 中央集権 vs 地方自治のねじれ:連邦制がかえって行政の混乱を招いている。
その結果、「かつての王政の方が安定していた」「国家の統一の象徴が必要だ」と考える層が増えている。
日本から見たこの動きの意味
① 立憲君主制という制度の再考
日本は現存する数少ない立憲君主国の一つ。
天皇は象徴に徹しつつも、国の安定と連続性を象徴する存在として機能している。
ネパールでも、国王は同様に「国家統一の象徴」として役割を果たしてきた過去がある。
つまりこの動きは、「権力を持つ王」ではなく「安定を象徴する王」への回帰であり、日本の皇室と重なる部分もある。
② 民主主義=万能ではないという問い
日本では民主主義が絶対的な価値として語られることが多い。
しかし、ネパールの事例を見ると、「民主的であること」と「国がうまく回ること」は必ずしもイコールではない。
日本にとっても、「制度を信じること」と「現実に即した制度を見直すこと」は両立し得るという示唆を含んでいる。
③ 「思想としての王政」への理解
ネパールの王政復活論者たちは、王を「個人」ではなく「思想」や「価値観」として語っている。
これは日本で天皇制を語る際にも有用な視点であり、「制度」と「文化」「精神性」を分けて理解する手がかりとなる。
終わりに:「王政復活」という揺り戻しの波をどう読むか
王政の是非は別として、ネパールで起きているこの市民運動は「国家の方向性をめぐる再定義」の一環だと言える。
そしてそれは、民主主義の枠内で「別の形の民意」をどうすくい取るかという世界共通の問いを映している。
日本に住む私たちにとっても、「象徴」「伝統」「統治」のあり方を今一度考えるヒントとなるかもしれない。
外部リンク:
The Kathmandu Post(2025年5月28日): RPP says protest will be peaceful, and within Ring Road