ブータンの若者の7割が移住希望──消える労働力と国家の未来

「ここでは未来が描けない」――そう感じている若者が、ブータンに増えている。
世界銀行が2025年に発表した最新レポート『Poverty and Equity Assessment』によると、ブータンの求職者のうち実に70%近くが国外への移住を希望していることが明らかになった。
これは、国内の雇用環境や賃金水準への不満だけではなく、構造的な経済格差や教育制度の限界をも示唆している。
若者たちの夢と現実のギャップ
報告書によれば、特に都市部と地方の所得格差が広がる中で、教育を受けた若者たちの多くが「学んだ知識を活かせる場がない」と感じている。
また、都市への人口集中によって地方の経済活動が停滞し、「地元に残る」という選択肢そのものが失われつつあるのだ。
高学歴者ほど移住を希望する傾向が強く、人気の移住先にはインド、オーストラリア、アメリカ、ヨーロッパ諸国が並ぶ。
彼らは英語力を活かし、ITや介護、ホスピタリティ分野での就労を志すケースが多い。
消える労働力──ブータン社会への影響
若年層の大量流出は、ブータンにとって深刻な課題だ。
もともと人口の少ない国であり、労働市場における若者の存在は重要である。
今後10年で人口の高齢化が進めば、内需の縮小や生産性の低下が現実のものとなる。
地方ではすでに農業従事者の高齢化が進み、家族単位での農業継承が困難になっている。
移住者の増加はこの傾向を加速させ、ブータン社会の持続性を脅かすことになるだろう。
政府の対応と課題
ブータン政府は職業訓練やスキル開発プログラムを強化する一方で、国外で得た経験やスキルを国内に還元する「ブーメラン人材」政策も模索している。
だが、こうした施策はまだ緒に就いたばかりで、即効性には乏しい。
また、教育と産業の接続が弱いため、大学卒業者が即戦力となれないミスマッチも深刻だ。
経済の多角化が進まない限り、若者にとって魅力ある職場が生まれないまま、移住の流れは続くだろう。
現地の声:「本当は家族と暮らしたい」
「海外で働く兄から仕送りが来るから生活は助かっている。でも、できれば家族で一緒にいたい」――ティンプーに住む22歳の女子学生は、移住について複雑な思いを語る。
移住希望は経済的理由だけでなく、「未来への展望が持てる場所で暮らしたい」という感情的・文化的な側面もある。
これは単なる労働移動ではなく、“人生の選択”としての移住だ。
日本との関係性──受け入れ側としてどうするか
日本でもブータン人留学生や技能実習生の受け入れが徐々に進んでおり、今後は介護やITなどの分野でさらなる連携が期待されている。
しかし、文化や価値観が違う国の人とどう向き合うかは日本社会の大きな課題だろう。
この世界の変化に対してどう対応していくか。
明治維新ほどの変革の時代が来ているのかもしれない。
外部リンク:
Kuensel Online