バングラデシュ

【第4回】油と砂糖とスパイスの食文化 健康意識の違い “帰ったのに異国”──バングラデシュ12年ぶりの帰省録

neocross

バングラデシュに帰省中、お腹を壊した。

「海外では水に気をつけろ」とよく言われるので、水はすべて市販のペットボトルにしていた。
12年前にはこんなに市販水が出回っていた記憶がない。ありがたい時代になった。

そうなると水は原因ではない。

水が原因ではないとすれば、考えられるのは――油だ。

あらむ
あらむ

キャノーラのすごさが身に沁みました。。

どの商店でも売っていたのはこの水。
「MUM マム」

市場をほぼ独占しているブランド

↓帰省時にとりあえず思ったことを書きなぐったメモ

*2024年3月

まずはスパイス

イメージがつくだろうが、南アジアではカレーが食生活の中心にある。
主食は米。見た目は日本米に似ているが、タイ米のようにパラパラしていて粘度は低い。

小学生の頃よく聞かれたのが、
『え、あらむん家って毎日カレーなのー?』
だ。

その通りだ。
ただし、日本のカレーとは定義が違う。

日本ではルーを使うのが一般的だが、バングラではスパイスを一から調合して作る。
日本のルーは、言わば「調合済みスパイスの塊」であり、しかもかなり美味しい。
自分も好きだ。

日本の「さしすせそ(砂糖・塩・酢・醤油・味噌)」に対して、バングラやインドの家庭調味料は、
ブラックペッパー、シナモン、ナツメグ、カルダモン、クローブ、コリアンダー、クミン、レッドチリ、ガラムマサラ……
といったスパイスが主役。

醤油も味噌も存在しない。

これらを家庭ごとに独自の比率で調合するため、同じ料理でも味は千差万別になる。

スパイスとは何か?

スパイスとは「植物」である。
使い方もさまざまで、フレッシュのまま、乾燥させて、あるいは粉末にして使用される。

そのため、スパイスは基本的に“体にいいもの”とされている。

たとえば、

・ジンジャー(生姜) → 血行改善
・ターメリック(ウコン) → 肝臓機能の向上

など、科学的にも効能が実証されている。

一方で、ブラックペッパーやレッドチリなどの刺激物も多く、慣れていない人は胃腸に負担がかかる。

油の重さと“胃”の限界

バングラデシュを歩いていると、お腹が丸く出た人をよく見かける。
アメリカでも肥満は社会問題になっているが、バングラデシュも例外ではない。

スパイス自体に健康への悪影響が少ないとすれば、問題はやはり油だろう。

バングラの料理は、ほとんどすべてに油が使われている。
しかも、日本のキャノーラ油やオリーブオイルのような“さらっと感”とは真逆。

重い。とにかく重たい。

いくつかの家庭を訪問したが、どこでもたくさんの料理でもてなしてくれた。

とてもありがたかったが正直に言うと胃は限界だ。

断るのも忍びなくひたすら食べた結果、お腹を壊してしまった。
「胃薬は持ってくるべきだったな」と思う。

脂質の弁護

油(=脂質)はしばしば悪者にされがちだが、少しだけ弁護しておきたい。
脂質は、実は非常にエネルギー効率が高い。

栄養素*1カロリー(1gあたり)食品例食品のカロリー(100gあたり)
炭水化物4 kcalご飯(200g)約336 kcal(100gあたり168 kcal)
タンパク質4 kcal鶏むね(100g)約108 kcal
脂質9 kcal唐揚げ(30g)約84〜95 kcal(100gで約280〜300)

脂質は小容量で高エネルギーを得られる、効率のよい栄養素なのだ。
実際、日本のコンビニ弁当やハンバーガーなども、コストを抑えつつ“満腹感”を出すために脂質が多く使われている。

まさに「美味しいものは糖と脂でできている」、だ。

ただし周知の通り、過剰摂取にはリスクがある。
使い切れなかった脂質のカロリーは脂肪として体に蓄積されるのだ。
見た目が気になるだけでなく、血流が悪化し、内臓にも負担をかけてしまう。

効率的だからこそ、現代の豊食時代では“摂取コントロール”が非常に重要になる。

*1 出典:厚生労働省『日本人の食事摂取基準(2020年版)』P.45
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586553.pdf
文部科学省「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」
https://www.mext.go.jp/a_menu/syokuhinseibun/mext_01110.html
→ 食品番号「06020(ごはん)」・「10058(鶏むね肉)」・「16012(鶏から揚げ)」などを参照

*カロリーの理論値は栄養素ベースですが、調理法や水分量で変動します。

スイーツ天国 砂糖が主役の”মিষ্টি”の国

ロショゴッラ(みしてぃ)

“মিষ্টি(miṣṭi)”というデザートの代表格がある。
ベンガル語で「甘いもの」という意味で、そのまま“デザート”の代名詞になっているのだ。

、、、これがとにかく甘い。脳がひっくり返るほど甘い。

上記写真:ロショゴッラ(みしてぃ)
→ふわふわの白玉がシロップにどっぷり。噛むとじゅわっと甘さが口に広がる。
牛乳をレモンなどで分離させて作るチーズベース。(ミルクボールの砂糖シロップ漬け)

バングラデシュの人はとにかく甘いものが大好きだ。
砂糖文化は深く根付いていて、チャイ(スパイスミルクティー)やコーヒーにも大量の砂糖が入っている。

いくつか代表する甘いものを紹介したい

  • チャイ
    朝の露店スタイルで供されるバングラデシュ式のミルクティー。ミルクたっぷりで、茶葉と砂糖がしっかり溶け込んでて、まろやか&濃厚な風味が特徴。
  • ジラピ
    ぐるぐると渦巻き状に揚げた生地を甘シロップに浸して仕上げた、極甘ドーナツ菓子。
  • アムシ
    ドライマンゴー(干しマンゴー)。しっとりした質感で、見た目も素朴。甘さは控えめで、酸味とフルーティーな香りが特徴。干し未熟マンゴーを薄くスライスし、天日または低温乾燥させた保存食品。

こうした甘い食文化の一方で、糖尿病の増加も社会問題化している。
嗜好と健康、そのバランスはどこの国でも難しい。

美味しい果物たち

油と砂糖の話だけでは偏るので、最後に果物の素晴らしさにも触れておきたい。

バングラデシュは一年中気温が高い南国。
そのおかげで、果物がとにかく豊富だ。

庭にバナナの木やドリアンの木があったことを、今でもよく覚えている。

  • バナナ:品種も多く、日本より甘みが濃い。
  • アムラ:酸味が強いが栄養価が高い、伝統的な健康食。
  • フェアラ:緑の皮、中は白またはピンク色。甘みと酸味のバランスがいい。
  • ドリアン:好き嫌いが分かれるが、現地では人気。
  • ライチ:初夏になると一斉に出回る。甘くてみずみずしい。
  • ココナッツ:ジュースも果肉も人気。

自然の甘みや栄養たっぷりの果物は、スパイスや油、砂糖と並ぶ主役なのだ。

まとめ:食文化は“アイデンティティ”

食文化の違いを見るのはおもしろい。
食はその国の歴史や文化に大きく関わっている。

言わずもがな、人は食べないと生きていけない。
自分の生きている環境に逆行して別の食生活をするのはかなり難しいだろう。家族や親族がみんな食べている中で自分だけ別の食事をとるということだ。食材自体も手に入れるのが難しい。

いまある食事に感謝し、他国の食文化にも敬意を払いたい。

著者について
新夢シャド
新夢シャド
1991年、バングラデシュ生まれ。7歳から東京で育つ。大学を卒業後、株式会社ファミリーマートで総合職として10年勤務。その後、ネオクロスを起業し、バングラデシュを中心に南アジアの投資や旅行、文化や人の交流などを幅広く発信している。
記事URLをコピーしました