暗雲立ち込めるモルディブ経済──債務返済危機の真相と今後
観光の楽園モルディブで、いま静かに“財政の嵐”が近づいている。
2025年の国家予算は566億モルディブ・ルフィア(約5250億円/約36.79億ドル)に対し、今年末までに返済すべき債務は106億MVR(約9832億円/約6.88億ドル)、
来年にはさらに約170億MVR(約1577億円/約11.05億ドル)の返済が控えている。
これは合計で約276億MVR(約2564億円/約17.93億ドル)
──予算のほぼ半分に迫る巨額な返済プレッシャーだ。
1MVR=0.065USD=9.28円 1USD=約143円
(2025年7月為替レート)
「楽園国家」が抱える現実
モルディブはインド洋に浮かぶ観光大国であり、日本人にも人気の高級リゾート地として知られている。
観光地として有名だが、財政は不安定だ。
国家経済の多くを観光収入と国外からの支援に依存する、極めて脆弱な構造なのだ。
特にコロナ禍で観光客が激減した2020年以降、その財政基盤は揺らぎ続けており、現在の外貨準備高は実質1.5ヶ月分しかないとされる。
格付け機関は「デフォルト(債務不履行)の可能性が高い」と警告
国際格付け機関Fitchは、モルディブの信用格付けを「CC(デフォルトに非常に近い)」に据え置き、財務状況に対する強い懸念を示している。
政府高官は国際的なパートナーに対して「返済は必ず行う」と強調しているが、格付けは依然として「ジャンク(投資不適格)」のままだ。
コスト増と凍結されたプロジェクト
モルディブ政府は、「プロジェクトの効率化」や「歳出の見直し」など改革案を発表しているが、実際にはその多くが未実行。
財務省が発表した最新の週次財政報告によれば、公共投資(PSIP)プロジェクトへの支出は昨年の52億MVRから今年はわずか14億MVRに減少。差額は実に37億MVRだ。
ムイズ大統領自身も改革が進んでいないことを認めている。
しかし、実行力に乏しい国営企業に複数の大型プロジェクトを再び発注しており、実際の工事は進んでいない。
2025年予算には、77億MVRの財政改革による歳出削減と歳入増加が盛り込まれていたが、数字には反映されておらず、改革の計画自体が事実上放棄されたように見える。
この判断はモルディブ経済に大きな打撃を与えかねない。
給料カットの約束も忘れ去られ…
政府は給与削減により1,400万MVR(約1.3億円)の節約を行うと発表していたが、現実には給与支出が昨年の56億MVR(約520億円)から今年は60億MVR(約557億円)に増加。
約4億MVR(約37億円)の増加となっており、削減どころか逆に膨らんでいる。
こうした状況下で、島々のインフラ整備が進まないのも無理はない。
人々が知るべきは、「港湾建設や下水処理といった自分たちの島のインフラが遅れているのは、政府が無駄な支出を減らそうとしないから」という現実だ。
官僚機構は依然として重すぎる。
数字が示す現実 債務不履行は現実か?

中央銀行であるモルディブ金融庁(MMA)の外貨準備は2025年4月末時点で約8.66億USD(約1,238億円)あるが、
今後12ヶ月間に予定される債務返済を差し引くと、実質的な残高はわずか約2,800万USD(約40億円)。
国を支えられるのはせいぜい1ヶ月半とされている。
モルディブの年間歳入は約230億〜250億MVR(約2,150億円/15億USD)だが、そのすべては政府職員給与、教育、医療、行政運営に充てられ、債務返済に回す余地はない。
暗雲と現実ーー政府の大きな歳入予測
政府は今年、歳入および外国からの助成金・融資で約400億MVR(約3700億円/約26億ドル)を見込んでいる(予測)が、その数字の多くはまだ現実に反映されていない。
仮にそのうちの25%を2年貯蓄したとしても、2年で約200億MVR(約1690億円/約13億ドル)となる。約276億MVRの返済には足りない。
最善シナリオでも不足しており、それが現実なのだ。
国際社会とのつながりと「日本から見た視点」
モルディブはこれまで中国からの融資に大きく依存してきたが、インドとの関係が冷え込む中で、戦略的な立ち位置が揺れている。

日本にとってもインド洋は地政学的に重要なエリアであり、モルディブの安定は域内の海上輸送や環境保全にも影響を与える。
日本企業の中には観光投資や港湾整備への関心を示す動きもあるが、このような財政リスクを前提とした上での判断が求められるだろう。
まとめ:この嵐を乗り越えるには
モルディブ政府は、国民や国際社会に対して「前向きなイメージ」だけでなく、この現実を率直に説明すべきである。必要な備えと対策を示すべきだ。
見せかけの強気や根拠のない自信では、国民の信頼は得られない。
この財政の嵐を乗り越えるには、透明性のある財政運営と確実な外部支援の確保が不可欠だ。
外部参照リンク:
Jun 16, 2025
SunOnline International | Maldives News,