バングラデシュ

【第6回】故郷で感じた“死”とつながり “帰ったのに異国”バングラデシュ12年ぶりの帰省録

neocross

子どもの頃から日本で育った私はお墓参りをしたことがなかった。
日本に親族がいないので、それも当然のことだったのだろう。

だから「お墓参り」は自分の人生において重要なことではなかったし、
一時期は「過去を振り返っても仕方ない」とさえ思っていた。若さゆえの浅はかさもある。

大学を卒業し、会社で働いていた頃は長期休暇もいらないと思っていたし、実際に休んでも特にやりたいことがなかった。

その考えは当時の自分にとっては自然だったと思う。

ただ、あとから気づく。
やりたいことは勝手には降ってこない。
考える“余白”が必要だ。

帰省はいい余白になった。

あらむ
あらむ

自分は社会に生かされていることを再認識すると身が引き締まりますね。

日本では仏教の影響で火葬が主流だが、バングラデシュではイスラム教の教義により土葬が基本だ。

あまり知られていないが、キリスト教ももともとは土葬が中心。
イギリスでは 1874年に火葬協会が設立され、1885年には正式に火葬が合法化された。

中世ヨーロッパでは土葬が一般的だったが、近年では都市化・合理主義の影響で火葬が増えている。

土葬でも、墓地のスペース確保のため、数年後に遺体を掘り返して骨を収容する「再埋葬」を行う。

国・地域宗教系統葬儀形態(2023年推定)*概算1
アメリカプロテスタント系火葬 約60%、土葬 約40%
【NFDA統計】
ドイツプロテスタント中心火葬 約75%、土葬 約25%(都市部中心に火葬増)
フランスカトリック火葬・土葬 約50%ずつ
イギリスカトリック/プロテスタント火葬 約77%土葬 約23%
インドヒンドゥー教火葬中心
中国仏教・無宗教火葬 約46%、都市部で義務化地域も存在
日本仏教火葬 99%以上
ロシア正教会(ロシア正教)土葬 約90%、モスクワでは火葬率上昇(都市で最大30〜70%
ギリシャギリシャ正教土葬がほぼ唯一の選択肢、火葬率 約0.6%
スウェーデンルーテル派(プロテスタント系)火葬 約83%土葬 約17%
サウジアラビアイスラム教(スンナ派)完全な土葬文化、火葬禁止
インドネシアイスラム教死後24時間以内の土葬が原則(白布・洗浄・埋葬の儀式)

そのほかの世界の葬送文化:
・古代エジプト:ミイラ化して埋葬
・チベット:鳥葬(鳥に遺体を捧げる)
・海洋民族:海葬(海に還す)

死ぬ時は戻ってきなさい

帰省中、よく耳にした言葉がある。
「日本で働いて、死ぬときはバングラデシュに戻って来なさい。」
だ。

つまり、「生きる場所」は日本でも、「死ぬ場所」は故郷であれという意味だ。
「土葬にしなさい」という願いでもある。

話を聞いていると、ご遺体を火で焼くことへの拒否感も非常に強い。

日本では逆の意見をよく耳にする。
「土葬は感染症リスクがあるし、絶対に火葬のほうがいい。」

土葬は“非衛生的な迷信”、
火葬は“先祖に対する冒涜”
とする見方がそれぞれにあり、「死」に対する価値観がぶつかることもある。

どちらの文化にも共通しているのは、
「先祖を大切にしたい」という気持ちだろう。

初めての墓参りで感じたこと 孤独とつながり

首都ダッカから離れ、ラムゴンジにある母方の祖父母の家を訪れた。

祖母は祖父母の中で唯一の存命者で、久しぶりに会う孫をとても喜んでくれた。
なぜか私も胸がいっぱいになった。

その後、
「おじいさんに挨拶してらっしゃい」
と言われ、大人になって初めてお墓参りというものをした。

30代になってから初めて墓参りをして思ったことは、

『自分は社会に生かされている』

ということだ。

人は一人で生まれてこないし、一人では生きていけない。

誰かの支え、誰かの努力、誰かの犠牲があるのだ。
親が育ててくれなければ、赤ん坊は生きられない。

ただし同時に、

人は一人で生まれ、一人で死んでいく。

これもまた事実だろう。

対極に位置する考えは分かりやすく刺激的だが、偏らずに両方の考えを持ちたい。

後者の考えが強かった私に前者の考えの比重が増えた。


深い孤独がなければ、まともな作品は作れない。
ーーパブロ・ピカソ

人間の偉大さは、どれだけ多くの人に奉仕できたかによって測られる。 
ーーマハトマ・ガンジー

右側のカラフルな塀の中がお墓 中には基本入らない。

自分は何も成し遂げていないという焦り

お墓入りをした際、先祖への感謝と敬意を抱く一方で、
「自分は何も成し遂げていない」という焦りも同時にきた。

本来、時代も状況も異なり、比較できるものではないのだが、自分自身に切迫感を突きつけてしまった。

自分は果たして墓参りされるような人間になるのだろうか?

長い目で見れば、エントロピーの増大によって宇宙は熱的死に向かうと言われている。
そんなことを考えても仕方がない。

それでも、
“死”というものは、人生を見つめ直すきっかけになる。

まとめ 

死生観は、宗教や歴史、そして暮らしの中に根づいている。時代が変われば、死のかたちも、受け止め方も変わっていく。
「どこから来て、どこへ行くのか」と考えるのは自然だ。

今まで意識していなかったが、“死”を通して“つながり”に気づかされた。

参考文献・統計ソース
National Funeral Directors Association (NFDA)
Eurostat, Pew Research Center
各国厚生省・宗教庁・国際火葬協会(CANA)

  1. 1 ↩︎

想・歴史・サイエンス・テクノジーの古典がまとまっています

著者について
新夢シャド
新夢シャド
1991年、バングラデシュ生まれ。7歳から東京で育つ。大学を卒業後、株式会社ファミリーマートで総合職として10年勤務。その後、ネオクロスを起業し、バングラデシュを中心に南アジアの投資や旅行、文化や人の交流などを幅広く発信している。
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