ユヌス博士が語る“3つのゼロ”ビジョン——バングラデシュ発、アジアの未来とは?

バングラデシュのノーベル平和賞受賞者、ムハマド・ユヌス氏が2025年5月開催の「日経アジアの未来」セミナーで語ったのは、“破壊と分断”の資本主義から、“尊厳と希望”の文明への転換でした。彼の言葉は、南アジアに限らず、私たち一人ひとりの生き方を問い直すものだと感じます。

日経フォーラムに登壇したユヌス氏の話しをまとめます!
印象的だったのは『個人の利益から集団の幸福へ、私たちは考え方を変えていかないといけない』という言葉です。
ユヌス博士とは?マイクロクレジットの父

【1】資本主義の転換の必要性
自己破壊的な文明から脱却し、新しい文明が必要
ユヌス氏は、現代の資本主義は短期的な利益を追い求めるあまり、破壊的で持続性のない「自己破壊的な文明」となっていると述べ、次のように語りました。
『人は苦しむために生まれてきたわけではない』
新しい文明には「ケア・再分配・共生」が必要だとし、
『今の資本主義は富の集中と分断を生み、尊厳と信頼と自由を失っている』
と指摘。
今までの文明が間違っていたことを認め、尊厳・信頼・自由を包含する目的ある資本主義へ転換すべきと訴えました。
『個人の利益から集団の幸福へ、私たちは考え方を変えていかないといけない』 ユヌス氏
【2】目指す“3つのゼロ”ビジョン
貧困ゼロ・失業ゼロ・炭素排出ゼロ
ユヌス氏が掲げたのは、
『貧困ゼロ、失業ゼロ、炭素排出ゼロ』
という3つのゼロのビジョン。これは単なる理想ではなく「方向性」であり、
『もっと相互依存(協力)し、お互いの必要性を深める社会に』
と語り、ケア中心の社会と持続可能性を強調しました。
アジアは多様性を抱えるがゆえに、共通課題(気候変動など)に対し協力と団結が必要であると指摘しました。
また、
『貧困は、貧しい人々が起こしているものではなく、システムが起こしている』と語り、構造の問題としての貧困を浮き彫りにしました。
私が人生をかけて学んだことは『貧困は、貧しい人々が起こしているものではなく、システムが起こしている』 ユヌス氏
【3】若者へのメッセージ
仕事を探すな、起業人になれ!雇用の創出者になれ!
ユヌス氏は登壇の中で次のように語っています。
私は常に若者たちにこう呼びかけています 、「仕事が見つかるのを待つな、仕事を自ら作れ、給料だけを求めるな、問題を解決するものを築け、 求職者ではなくソーシャルビジネスの雇用の創出者となれ」とね。
起業のために必要なのは「道具(スキル)・信頼(信用)・自由」だとした上で、
現在の教育制度に対しては、それができていないと主張。
現在の教育制度への批判
現在の教育制度は、依然として「会社に入る準備」しか教えておらず、「これは古い文明の考え方だ」と批判しています。
若者よ、仕事が見つかるのを待つな! 仕事を自ら作れ!
【4】平和への提言と政治批判
「防衛省はあるのに平和省はない」という指摘。
世界中の国家が防衛や戦争の準備に巨額の資金を使っているのに、平和への投資は行っていないと指摘。
「貧困は平和の最大の敵だ」
と名言し、戦争ではなく平和にこそ予算を投じるべきだと訴えました。
防衛省よりも平和省を!
質疑応答より
大規模デモでハシナ政権交代から9ヶ月の政治経験について
・ハシナ政権の16年間で、1600億ドルが特定の層に吸い上げられ、銀行システムが機能不全に。
・現在は選挙制度だけでなく、憲法や司法制度の改革も進行中。
バングラデシュデモの国連レポートまとめ
🇧🇩 バングラデシュ:国連が「抗議弾圧の残虐性と組織性」を指摘
学生主導のデモに対する元政権の人権侵害を非難し、責任追及を要求
🗓 報告日:2025年2月12日(OHCHR)
📍 対象期間:2024年7月1日〜8月15日
引用:バングラデシュ国連公式サイト 報告書ページ(英語)
🔹 主な結論
・元バングラデシュ政権および治安・情報機関、与党アワミ連盟の暴力的要素が組織的かつ大規模な人権侵害を行った。
・国連は、これらが「人道に対する罪」に該当する可能性があり、刑事責任追及が必要と主張。
🔹 デモと弾圧の実態
・抗議活動の発端は「公務員採用のための旧クォータ制の復活」だが、根本原因は腐敗政治や深刻な経済格差。
・元政府は権力維持のために計画的・組織的に弾圧。
・推定1,400人が死亡、数千人が負傷。うち12〜13%は子ども。
・死亡のほとんどは治安部隊による銃撃によるもの。
・元首相および高官が直接指揮していた証言も多数。
🔹 具体的な残虐行為(例)
・至近距離からの銃撃や、金属弾(ショットガン)での殺害。
・12歳の少年や6歳の少女までもが命を奪われた。
・負傷者が治療を受けた病院では、警察が患者を尋問し、指紋採取・映像押収・医療関係者への威圧を行う。
・女性活動家に対しては性的暴力や脅迫も記録。
・ヒンドゥー教徒、アフマディーヤ派、先住民族などのマイノリティも標的にされた。
🔹 報復と社会不安
・政権が崩れ始めると、アワミ連盟支持者・警察・メディア関係者に対する報復的殺害や暴力行為も多発。
・一部では100件以上の逮捕もあったが、多くの加害者は今も処罰されていない。
🔹 ユヌス暫定政権の対応
・ユヌス氏の要請により、国連が独立調査団をバングラデシュに派遣。
・暫定政権は調査に全面協力し、資料提供・アクセス許可を行った。
🔹 国連の提言
・治安・司法機関の改革
・言論・政治活動を弾圧する法律や制度の廃止
・政治制度と経済ガバナンスの抜本的見直し
💬 国連高等弁務官のコメント
「真実を明らかにし、癒しと説明責任を果たす包括的プロセスこそが、バングラデシュの未来にとって最善の道だ」
今は暫定政権ですが総選挙の時期は?
・他の政党は「すぐに選挙を」と言うが、私は『改革→政治犯罪者の裁判→総選挙』の順だと考える。
・総選挙は2025年12月〜2026年6月の間を想定している。
・次の選挙は立候補しますか?→「私は政治家ではない。次の選挙には立候補しない」
まとめ: 登壇を聞いてみて
バングラデシュでユヌス氏を知らない人はいないほど、彼の活動は多くの人に影響を与えています。
今回の登壇を通して感じたのは、政府の分配ではなく、市場や市民自らが分配を担う「新しい資本主義」の必要性です。
もし制度が追いつかないなら、思想と教育の転換(論語と算盤的な価値観)が求められます。
アジアが成長していく中で、競争と協調を両立できる未来志向の社会システムが必要だと改めて感じました。
競争と協調、両方の精神を持っていきたいですね。